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 九月も終わりに差し掛かり、落ち葉がカラカラと路上を走りはじめた。太郎の帰郷以降、敏夫は就職先のレストランに顔を出すために、ちょくちょく地元に帰るようになった。

「面倒臭ぇけど、仕方ないよな」と言いつつ地元での仕事が楽しいのか、何だか嬉しそうだった。

 僕の胸の中には、あのカウンター・パンチの衝撃が、未だ燻り続けていた。「父さんに会いにいこうかな」毎年、正月に一泊二日で帰って、チラっと顔を見せる程度だったため最近の父の顔はほとんど覚えていなかった。母に電話して父の病室を確かめたり、駅で苫小牧までの料金を改めて調べたりしながら、僕は落ち着かない日々を送った。そんなある日、バイトが休みだったためレコード屋巡りでもしようと外に出ると服の入ったゴミ袋を持った敏夫と出くわした。

「燃えるゴミは今日じゃねぇぞ」

「違う違う。実家に運んどこうと思ってさ」

「また帰んの?」

「ああ、色々覚えることもあるしな。あっ悪い汽車の時間がさ…」

「急げ急げ!じゃあな」

 ゴミ袋を揺らしながら走り去る敏夫の後姿を見送った。公園の方から楽しげな子どもはしゃぎ声聴こえる。敏夫が向かいの通りからこちらに手を振った。

 

 レコード屋が集まっている『大通』までの切符を買って改札を通っていると、地下鉄が「やぁ!」と言わんばかりに勢いよく顔を見せた。利用客の少ない平日の真昼間。僕がホームへ駆け下りて飛び乗ると案の定、すぐに動き始めた。人気の無い座席に腰を下ろすと車内アナウンスが息つく間もなく流れた。

「次は札幌、札幌、降り口は右側に変わります」

 

 その時間、予定ならばレコード屋巡りをしているはずの僕は、札幌駅のホームに苫小牧行きの切符を握って立っていた。しかし電車がそう都合よくある訳もなく、僕はホームの隅に設置されている喫煙スペースで時間を潰すことにした。

「何やってんだかなぁ」

 缶コーヒーをシャカシャカ振りながら僕は電車を待った。

 

 

 

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