Daisuke Ibi / NOISE DISTRACTION CREATIVE
演劇について ~intro論~
20歳の頃、演劇というものを知った。「即興組合」という劇団を見に行った時、腹を抱えて笑った覚えがある。この劇団を知ったのは当時好きだった「即興音楽」を検索したところ、札幌で即興劇をやっている人達がいることを知った。早速、公演日を見つけ行ってみた。客は20人ほどだったが、とても面白かった。あの場に居た20人ほどの客全てが大爆笑していた。それから、その劇団の役者の出ている劇をよく見に行っていた。
しかし、その後は学校に通い始めるなど、何かと身辺が忙しくなってきたため、演劇からは遠ざかっていた。
イトウワカナに会ったのは昔行った専門学校の忘年会だった。「intro」という劇団をやっているということだったので、今度観に行くと約束した。
初めて見た舞台は「言祝ぎ」という演劇だった。確か3人姉妹の話だったと思う。まず客の多さに驚いた。久々に見た演劇はとても新鮮だった。しかし本作のみを見終えた印象としては、向田邦子の家族寸劇というか、ちゃんとした批評家からは「ああ、そういう感じね」と一蹴されてしまいそうな、まさに風前の灯的な印象を受けた。
腹を抱えて笑う場面はないし、少し考えさせられるようなとこもあったが、何かありそうな匂いが香りたち、まるで美しい蝶の幼虫の様な、舞台はそんな雰囲気に満ちていた。言葉の端々には、明らかに触手が動く。これは良い。
「気になったものにはトコトン付き合う」を信条にしているため、次の演劇も観に行った。その次見たのは「ことほぐ」であった。舞台が円形になっており、役者さんの登場、配置も面白い。台詞や役者さんの動きもとても良かった。しいて言うなら物語が成立し過ぎている気がした。この辺は好みの問題なのだろうが、僕は不幸や貧困、不運とは少し違う、「全体として少し破綻した」ものを好むからだ。しかし「ああ、可愛そうだけど、幸せそう、あっでもそうでもないんだ」と登場人物それぞれの気持ちを考えては、次々と変わっていく感情の展開していく速さに爽快感が伴って、観終った時には、「演劇を観たな」という気にさせてくれる。
でも、もうちょいなんだと思った。まだ蝶にはなっていない。
で、次に観たのが「モスクワ」です。この作品はとても静かだった。ロシア語の響きが不思議かつ、面白かった。まったく関係ないのだろうが子供の頃観た「宮沢賢治/銀河鉄道の夜」を思い浮かべていた。それほど僕には難しかった。内容はマクドナルドやコカ・コーラなどのポップ・ワードがたくさん出てくるのに、不思議だった。ただ今でも「ドブリニンスカヤ駅」というワードは覚えている。銀河鉄道の夜でも「カンパネルラ」というワードのみが僕の中に残っていた。こういったところも銀河鉄道の夜に被る要因かもしれない。いずれにせよ、ロシア語から連想する、極寒の静寂につつまれたロシアが、ずっと頭の片隅に残っていた。
そして次観たのが「わたし –THE CASSETTE TAPE GIRLS DIARY-」でした。これが凄かった。正直驚いた。役者さんの人数の多さにもビックリしたが、その人数(多分20人位)に納得の内容。あれ位の人数が必要なほどのエネルギーを内包していた。恐怖の中に潜む僅かな笑いを、見事に汲み取っていた。開始10分で、身を乗り出して観ていた。確か太宰治「女生徒」をモチーフにしているらしく、文学作品が苦手な僕は、ちょっと「うっ」となっていたが、お堅い文学的な要素は、コミカルな台詞とリズミカルな動きでPOPに覆われていて、鼻に衝くようなこともない。何だこれは。素晴らしい。今までに経験の無い感覚がした。開いた口が塞がらなかった。
ストーリーは追えなかった。つまり何の話をしているのかは、理解していないのだ。1人の女性の20個分の感情を、20人で演じてるのかな…、大人になるにつれ増えていき、「いじめ」のシーンでは感情の塊が減っていた。これはまだ感情が未発達だからなのか?人は大人になるにつれ、感情が複雑になる…よなぁ。と、言うように物語を上手く説明できない。
また音楽的要素もふんだんに取り込まれていて、分かり易い所ではミュージカル、台詞を用いたノイズやカオス、ミニマル。デジタル・ミュージックは演出との相乗効果で、その無機質感を惜しげなく発揮していた。
面白いものを観た。そう周りに言える位、不気味だった。不気味で、とにかく面白い。音楽的な側面から見ても、相当深みをついているし、台詞回しも的確で、まるで誰かの脳を覗いている感じ。
こういった変貌は、久々だ。出てきたのは蝶ではなかった。その代り、面白いフォルムの何かが確かに心の中で蠢いた。演劇を観る機会を再びくれたワカナに感謝だ。
最新作「薄暮 –haku bo-」は、前回の様に人数で有無を言わさず観客をさらっていくのではなく、ドッシリと構えており、ウサギの被り物を装着し、別の誰かを演じている様は可笑しみと少しの懐かしさがあって、一番気に入っているシーンだ。
音楽はエイフェックス・ツイン然としていたが、あの手の電子音楽はよくハマっていたが、頭はちょっと混乱していた。「あれ?広告ではサージェント・ペパーズっぽかった気が…」まぁ、現代においてビートルズっぽい曲が前面でってのも、合わないのかなと、妙な計算もした。
舞台装置も凝っており、天井から結構な長さの白い布が垂れてくるように仕掛けられていて、時に海に見え、時に雲に見えたりと、観客の想像力で如何様にもなる白い布。最後の方は舞台が布だらけになり、町明かりを俯瞰するようなシーンで終わっていく。
相変わらずの不気味さは残しつつ、テンポよく繰り出されるコミカルな言葉回しや役者さんの演技で、新しい何かを生み出していた。
というか、あのウサギの被り物欲しいな。付けてた役者さん汗だくだったけど、空気穴をもっと増やせば、結構快適な気がした。ウサギの被り物が欲しくなった。
これは、「intro」という劇団しか観劇していない者が思った、、つたない感想です。僕は体調の関係上、いつまで観劇できるかわからない。しかし出来る範囲で応援はしたいと思っている。ワカナには、これからも面白い劇をたくさん作って欲しいと願うばかりだ。
上記の「ことほぐ」と「わたし –THE CASSETTE TAPE GIRLS DIARY-」はDVDで売ってます。どちらでも観てみ。ぶっ飛ぶから。
イビ ダイスケ